プロの住宅レシピ 風景と呼応し、素材と暮らす──自然にひらかれた健やかな日常のかたち

井上久実
淡路島の海と山に囲まれた敷地に建つ、5人家族のための住まい。
お施主さんは健康意識の高い方で、ご要望は健康な住宅であることでした。
素材から設備に至るまで丁寧に選び抜かれ、周囲の豊かな環境を住まいの中にも自然に取り込んでいます。
この住宅の中心にあるのは、床下換気システムによって整えられた空気の質。
室内にきれいな空気を送り込み、湿気や汚れた空気は下から抜く構成で、澄んだ空気が保たれた快適な住環境を実現しています。素材には無垢材や土佐和紙、珪藻土を用い、すべての部屋から海を望む開口部も設けられています。
設計全体では空間の連続性と開放性を重視。部屋に扉を設けず、子ども部屋もL字型のパーテーションで緩やかに仕切ることで、互いの気配を感じつつ程よい距離感を保てる構成です。
洗濯室から直接屋外に出られる動線や大容量の収納も備え、実用性と回遊性も確保されています。
特筆すべきは天井高3.5mの廊下の突き当たり。壁の代わりにガラス面にすることで視線の抜けをつくり、季節ごとに表情を変える緑を取り込んでいます。空間の緊張をやわらげ、呼吸のようなリズムが生まれることで自然との対話を象徴する場所となっています。
照明はあえて多めに配置し、時間帯や用途に応じて点灯範囲を調整できる設計に。
スイッチ経路も細かく分けられ、暮らしの変化に寄り添う光環境が整えられました。
設計の根幹には「時間の経過が美しさになる素材選び」と「環境との呼応」があります。日々の暮らしが積み重なることで、風景と家が共に変化し、ひとつの調和をかたちづくっていく──そんな在り方が丁寧に編まれている住宅です。